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京都地方裁判所 昭和60年(わ)718号 判決

本籍

京都府八幡市男山吉井一二番地二

住居

右同所

農業兼自動車運転手

西村博文

昭和二九年三月一六日生

本籍

京都府下京区松原通富小路西入松原中之町四七四番地

住居

同区麩屋町通高辻下る鍵屋町二〇三番地

マンション西村五〇一号室

会社役員

西村博

昭和二五年三月九日生

本籍

京都府八幡市八幡廣門二八番地

住居

同市男山吉井一一番地八

スーパー手伝い

山田廣子

昭和一七年一月三一日生

右三名に対する各相続税法違反被告事件につき当裁判所は検察官福嶋成二出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人西村博文を懲役一〇月及び罰金一〇〇〇万円に、被告人西村博を懲役一〇月及び罰金四〇〇万円に、被告人山田廣子を懲役四月及び罰金五〇〇万円に各処する。

被告人らにおいて各罰金を完納することができないときは、金二万五〇〇〇円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から被告人西村博文及び被告人西村博に対し三年間、被告人山田廣子に対し二年間それぞれの懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人らの連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人西村博文(以下「被告人博文」という。)は、西村正明の三男、同西村博(以下「被告人博」という。)は、右正明の二男、同山田廣子(以下「被告人廣子」という。)は、右正明の長女として、いずれも右正明が昭和五七年五月二四日死亡したことにより同人の財産を相続したものであるが、全日本同和会京都府・市連合会会長鈴木元動丸、同事務局長長谷部純夫及び同八幡支部長西村昭和らと共謀の上、右相続財産にかかる相続税を免れようと考え、被告人博文の相続財産にかかる実際の課税価額が二億五〇九五万八四六七円で、これに対する相続税額は九二〇〇万二二〇〇円であり、被告人博の相続財産にかかる実際の課税価額が六二一六万五〇八七円で、これに対する相続税額は二〇七〇万四二〇〇円であり、被告人廣子の相続財産にかかる実際の課税価額が七三四三万四一九四円で、これに対する相続税額は二六八九万二九〇〇円であるにもかかわらず、被相続人の右正明が有限会社同和産業(代表取締役鈴木元動丸)から二億七五〇〇万円の債務を負担しており、被告人博文においてそのうちの一億八五〇〇万円を、被告人博において同じく四〇〇〇万円を、被告人廣子において同じく五〇〇〇万円をそれぞれ承継したと仮装するなどの行為により、同年一一月一七日京都府宇治市大久保町井ノ尻六〇番地の三所在所轄宇治税務署において、同署長に対し、被告人博文の相続財産にかかる課税価額が六六三一万八四三八円で、これに対する相続税額は一〇六八万三一〇〇円であり、被告人博の相続財産にかかる課税価額が二二一六万五〇八七円で、これに対する相続税額は一六一万八五〇〇円(ただし、申告書には計算誤りのため課税価額は一九一五万〇八四一円で、相続税額は一〇八万四三〇〇円と記載)であり、被告人廣子の相続財産にかかる課税価額が二六〇八万八四六九円で、これに対する相続税額は四〇九万五一〇〇円である旨の内容虚偽の相続税の申告書を提出し、もって不正の行為により右各相続にかかる被告人博文の正規の相続税額九二〇〇万二二〇〇円との差額八一三一万九一〇〇円(ただし、被告人博文及び被告人博の関係でのみ。)を被告人博の正規の相続税額二〇七〇万四二〇〇円との差額一九〇八万五七〇〇円(ただし、被告人博関係でのみ。)及び被告人廣子の正規の相続税額二六八九万二九〇〇円との差額二二七九万七八〇〇円(ただし、被告人廣子及び被告人博の関係でのみ。)をそれぞれ免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人三名の当公判廷における各供述

一  第二回公判調書中の被告人三名の各供述部分

一  被告人三名の検察官に対する各供述調書(九通、検一二号ないし一五号、一七ないし一九号、二一号、二二号、ただし、検一二号、一三号、一五号は西村博文、検一七号は西村博、検二一号、二二号は山田廣子の各関係でのみ)

一  証人山田泰男、同西村昭和及び同西村平の当公判廷における各供述

一  長谷部純夫(検二三号)及び鈴木元動丸(検二四号)の検察官に対する各供述調書謄本

一  山田泰男(検六号)、西川平(検七号謄本)及び西村昭和(二通、検八号、九号いずれも謄本)の検察官に対する各供述調書の添付書類

一  大蔵事務官作成の各脱税額計算書(三通、検一ないし三号)、証明書(検四号)及び報告書(検二五号)

一  京都府八幡市助役作成の戸籍謄本(検五号)

(補足説明等)

弁護人らは、被告人らには違法性の認識及び不正行為により税金を免れるとの認識がなかった旨主張してその犯意を争っているが、被告人らはいずれも当公判廷において、遅くとも納税申告時までには、被相続人に債務(借金)がある旨仮装して本件納税申告が行われること、その結果として納付税額が正規の一〇パーセント程度になっていることを各承知していた旨認めているのであって、右供述は被告人ら相互間で符合しているうえ、他の証拠に照らしても十分措信できるもので、結局、被告人らは、単に「同和特別措置法に基づき税金が安くなる。」との他共犯者の言葉を信じ、また自身の税知識の乏しさから、自分達の所為が適法で債務(借金)を仮装することも許されると考えたに過ぎず、犯意としては何ら欠けるところはない。

(法令の適用)

被告人らの判示所為中、自己の相続税をほ脱した行為はいずれも刑法六〇条、相続税法六八条一項に、被告人西村博が相被告人両名に税金を免れさせた所為は、いずれも刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条一項に各該当するところ、被告人西村博が自己及び相被告人両名の税を免れ、免れさせた所為は、一個の行為で三個の罪名に触れる場合であるから刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として犯情の最も重い被告人西村博文に税金を免れさせた罪の刑で処断し、被告人三名につき各所定刑中いずれも懲役及び罰金の併科刑を選択し、情状により被告人西村博文につき相続税法六八条二項を適用し、その所定刑期及び金額の範囲内で被告人西村博文を懲役一〇月及び罰金一〇〇〇万円に、被告人西村博を懲役一〇月及び罰金四〇〇万円に、被告人山田廣子を懲役四月及び罰金五〇〇万円に各処し、被告人らにおいて右の罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金二万五〇〇〇円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置することとし、懲役刑については情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から被告人西村博文及び被告人西村博については三年間被告人山田廣子については二年間それぞれの刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑訴法一八一条本分、一八二条により被告人らに連帯して負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、前判示のように、被告人らが全日本同和会京都府・市連合会関係者に納税手続を依頼し巨額の税金を免れたという事案であり、ほ脱犯金額が巨額のうえに、ほ脱率も九〇パーセント前後と極めて高率であって、被告人らの刑事責任には軽からざるものがあるが、税知識に乏しいと思われる被告人らが本件のような納税申告がまかり通るとの噂を耳にし、同和会関係者らの話などに便乗したことを強く批難するのは過酷ともいえること、従前の税務当局の対応の仕方にも問題がないともいえないと思われること、被告人らは当然のことながら多額の重加算税、延滞税を課され、とりわけ被告人博文については、右税金の納付のため農地の大半を手放さなければならない状況に追い込まれていること、被告人三名が全日本同和会関係の他の共犯者の言葉を信じ、他の税軽減措置を講じなかったことが右税負担を加重する結果となっていること、被告人らはいずれもこれまで善良な市民として生活してきたもので今回のことを深く反省していること等被告人らに有利な事情もあるのでこれら記録に表われた事情等各弁護人の指摘する点をも十分參酌のうえ、被告人らをそれぞれ主文掲記の刑に処することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 萩原昌三郎 裁判官 氷室眞 裁判官 和田真)

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